「安心していいよ」を子どもに伝える非言語コミュニケーション:目力に頼らない信頼関係の築き方
以前、「『目力』に逃げるな」という内容の記事を書きました。
とは言え、「非言語情報」が、子どもたちに及ぼす影響は計り知れない。
つまり、非言語コミュニケーションは超重要です。
そこで今回は、「『安心していいよ』を子どもに伝えるための非言語コミュニケーション」 について書いていきます。
教師が無意識に発している非言語メッセージの多くは、ともすれば子どもに対して「威圧感」を与えてしまいます。しかし、ほんの少し意識を変えるだけで、同じ非言語コミュニケーションが「安心感」に変わるのです。
他にも表情、声のトーン、ジェスチャーなどもありますが、一気に伝え切るには内容が多すぎるので、今回は すぐ明日から意識すべき重要な2つ に絞ってお伝えしますね。
非言語が子どもに与える影響の大きさ
多くの教師が見落としている事実があります。
子どもは言葉よりも非言語メッセージを強く受け取っているということ。
心理学の研究によると、人間のコミュニケーションにおいて、言葉が占める割合はわずか7%。残りの93%は非言語情報(声のトーン55%、身体言語38%)が占めるそうです。
つまり、あなたが「大丈夫だよ」と優しい言葉をかけても、身体が威圧的なメッセージを発していれば、子どもは威圧感を受け取ってしまう。
特に、やんちゃな子どもたちは、大人の非言語メッセージに対して極めて敏感。彼らは長年の経験で「この先生は敵か味方か」を瞬時に判断する能力を身につけています。
今日お伝えする2つのポイントを意識することで、
あなたの非言語メッセージは
「威圧」から「安心」に変わっていくはず。
その「2つのポイント」とは以下です。
①身体の位置と角度
②話す「前後」のタイミングと間
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
なぜこの2つが重要なのか
①身体の位置・距離が重要な理由
人間には「パーソナルスペース」という概念があります。
以前読んだ書籍によると、物理的距離が心理的距離に直接影響するそう。
教師が子どもより高い位置から見下ろす構図は、生物学的に「支配ー従属」の関係を示すサイン。
一方、同じ目線で話すことで「安心して」のメッセージを示すことができます。
②タイミング・間が重要な理由
心理学では「待つこと」が相手への敬意を示す最も強力な非言語メッセージの一つとされています。
子どもが話そうとしている時に遮る、質問した瞬間に答えを求めるといった行為は、無意識に「あなたの考えは重要ではない」というメッセージを送ることになるんですね。
逆に、適切な「間」を置くことで「あなたの考えを大切にしています」という安心感を伝えることができる、というわけです。
【実践①】身体の位置・距離で「安心していいよ」を伝える
心理的メカニズム
人間の脳には「上下関係を瞬時に判断する」古い回路があり、昔から生存に必要だった能力だそうです。
大人が子どもを見下ろす構図は、この回路を刺激し「自分は下位にいる」「注意されるかもしれない」という警戒心を呼び起こしてしまう。
一方、同じ目線まで降りることで、この警戒回路を解除し「この人は敵ではない」という安心感を生み出すことができます。
実践のコツ3つ
1. 高さの調整
全体指導:適度な高さを保つと、「ある程度の威厳」があるように見える
個別対応:必ず子どもと同じ目線まで下がる(椅子に座る、しゃがむ)
褒める場面:子どもより少し低い位置から見上げるように話す
2. 距離の3段階活用
2m以上:全体への指示、重要な話の前置き
1m程度:個人への声かけ、日常的な会話
50cm以内:励まし、心配、個人的な相談場面
※前回紹介した記事の実践を行う場合は、この距離感で行うことで効果が高まります。
3. 角度の意識
正面対峙:威圧感を与えやすい(指導場面で活用)
斜め45度:相談しやすい雰囲気(信頼関係構築で活用)
※同じく、前回の実践をするなら、この角度がおすすめです。
隣に座る:最も安心感を与える配置
効果的な場面での使い分け
個別指導: 椅子に座り、斜め45度から話しかける
褒める時: 子どもを見上げるような角度でリスペクトを伝える
相談を受ける時: 隣に座り、同じ方向を向いて話を聞く
【実践②】タイミング・間で「安心していいよ」を伝える
心理的メカニズム
「待つ」という行為は、相手の存在を認める最も効果的な非言語メッセージだと感じます。
脳科学の研究では、話し手が十分に聞いてもらえたと感じた時には、オキシトシンというホルモンが分泌されるそう。
逆に、話を遮られたり急かされたりすると、ストレスホルモンのコルチゾールが分泌され、警戒心が高まるそうです。
子どもは大人以上に「自分の話を聞いてもらえるかどうか」を敏感に感じ取ります。
適切な間を置くことで「この先生は自分の話を大切にしてくれる」という安心感を与えることができます。
実践のコツ3つ
1. イラッとしたときの一呼吸ルール
子どもから不意にイラッ…とさせられる一言を浴びせられるとき、ありませんか?
その時に、イラついたままのテンションで反応してしまうと、結果的に損するのは担任です(そこが、この仕事の理不尽とも言えるところですが…)。
以下を意識することで、子どもからの発言をうまく躱してみましょう。
「大人の対応」を見せることで、物事がスムーズに行く場合があります。
※あまりにも暴言がひどい場合等は、これとは別で指導を行う必要があります。
・子どもが発言した後:ひと呼吸置いてから反応する
・指示を出した後:ひと呼吸置いてから次の行動に移る
・質問した後:ひと呼吸数えてから補足説明をする
2. 沈黙の効果的な使い方
・考える時間の提供:「少し考えてみよう」の後、30秒程度の沈黙
・感情の受容:子どもが感情的になった時、まず静かに待つ
・重要な話の前:「大切な話があります」の後、2〜3秒の間
3. 話すペースの調整
・重要な内容:通常の7割の速度で、意図的に間を置く
・励ましの言葉:ゆっくりと、一語一語を大切に伝える
・日常会話:子どものペースに合わせて自然なリズムで
非言語で変わる教室の空気
これら2つを意識するだけで、あなたの非言語メッセージは変わっていきます。
子どもたちは敏感にその変化を察知し、「この先生といると安心できる」と感じ始めるでしょう。
目力で威圧感を演出する必要はありません。
身体の位置と間の取り方を意識することで、
十分に子どもたちとの信頼関係の土台を築くことができます。
表情、声のトーン、ジェスチャーなど、他の非言語要素についても、また別の機会にお伝えしますね。
PS.
初任の頃の私は、「なぜ子どもたちが心を開いてくれないのか」が全く分かりませんでした。
毎日「おはよう」と声をかけ、授業も一生懸命準備し、時には冗談も言う。それなのに、どこか壁を感じる...
同僚の授業を見学した時に気づきました。その先生のクラスでは、子どもたちが本当にリラックスしている。なぜだろう?
観察していると、その先生は常に子どもの目線まで降りて話していたのです。私は立ったまま話すことが多かった。言葉では優しく接しているつもりでも、身体は「教師としての威厳」を保とうとしていたのです。
それから目的に応じて、しゃがんだり、体の向きを変えたり。時には「あえて」正面から話したり、、、と。
子どもの発言も、意識して最後まで待つようにしました。
変化はすこしずつですが、現れてきました。子どもたちが自然と話しかけてくるようになり、相談事も増え、教室の空気が明らかに変わったのです。
非言語コミュニケーションの威力を、身をもって体験した瞬間でした。
もしあなたが「子どもとの距離感」で悩んでいるなら、まずは今回の2つから始めてみてください。きっと変化を実感できるはずです。
また次の記事でお会いしましょう!^^