"孤立"から"参加"へ:やんちゃな子を学級の中心にする逆転の発想法
「あのグループ、また分けた方がいいんじゃない?」
「リュウイチはすぐ周りに引っ張られて悪くなる。ユウトとは離さなきゃダメよ」
「ユウトは、仲間がいると調子に乗る。孤立させていくべきだ」
「今のうちに、定期的に潰しておかなきゃ…」
ある学年会議での会話。
これって、
本当に教育なんですか?
多くの先生が「効果的な指導法」だと信じているこの方法。実は、余計に子ども集団の反発を招き、心を傷つけ、クラスを崩壊に導く「破滅的な階段」を登っていることに気がついていますか?
前回からの続き:協力者ネットワークの次のステップ
前回、「監督に言うよ」という脅しを「協力者に変える」ための重要な考え方。つまり、「根回し」による「協力者ネットワークの構築」についてお伝えしました。
今回はその続編として、同じユウトくんの例で「仲間関係の質的向上」についてお話しします。
前回の協力者ネットワークでまずはユウトくんの状況を「成長を促しやすい環境」に整えた次のステップ。それが「やんちゃグループのエネルギーを学級全体の推進力に変える」技術なんです。
孤立ではなく、みんなで成長を
「孤立させて潰す」のではなく「みんなで一緒に成長を目指す」
やんちゃな子は、敵ではありません。当然、その周りにいる子だって同じ。むしろ学級全体を引っ張る「推進力」として活かすべき宝物なんです。
基本的に、子どもの関係性に「良い」も「悪い」もありません。もともとあるのは「一緒に居やすいから、居る」という欲求のみ。この記事で言及したことです
その転換の鍵となるのが、前回の協力者ネットワークと組み合わせた「ウィンザー効果の仲間関係応用」。
明日から使える、シンプルだけど強力な方法をお伝えします。
なぜ「孤立」が教育を破壊するのか
孤立させる指導法の3つの致命的問題を見てみましょう。
【致命的問題①】心理的暴力の実行
社会的排除は物理的痛みと同等の苦痛を与えます。教師が「いじめの構造」を教室で再現している。これは、児童が大人になってからもずっと心に刻み込まれるんです。
個人的には、子ども時代のこういった経験は、いま世の中に溢れる「異常なまでの、世間の教員嫌い」の風潮と無関係ではないように思います。
【致命的問題②】表面的な解決の限界
その場しのぎで本質的変化なし。担任が変われば元通りという現実。これでは何の意味もありません。
【致命的問題③】才能を押しつぶす危険性
エネルギーを「問題」として捉える短絡思考。本来の強みを見抜けない大人の限界。「才能を押しつぶしている」可能性すらあります。
基本的に、エネルギー溢れる児童は「エネルギーが溢れてる」から「やんちゃ」なんです。周りに迷惑をかける方向性ではいけませんが、そのエネルギーの向きを変えることで、それは「周りからの強烈な承認、憧れ」となって返って来る。
最近でいえば、たとえばひろゆきさん。子どもの頃から「屁理屈ばかり言う問題児」だったそうですが、その「鋭い発言力」が今では多くの人を惹きつけるインフルエンサーの才能となっています。
歴史を見ても、坂本龍馬は若い頃「手に負えない暴れん坊」として有名でしたが、そのエネルギーが幕末の志士として日本を変える原動力になりました。
織田信長も、若い頃は「うつけ者(バカ者)」と呼ばれ、常識外れの行動で周囲を困らせていました。しかし、その「型破りな発想力」が戦国時代を変える革新的な戦略となったのです。
また、スティーブ・ジョブズも学生時代は「反抗的で扱いにくい問題児」として有名でしたが、その「既存の枠を壊す力」がAppleという世界を変える企業を生み出しました。
あなたは、「未来を変えるインフルエンサーの卵」を握り潰しますか?それとも、「卵を大きくして次につなぐ」「適切に孵化させて、大きく育てる」。どちらが「教育的」でしょうか?
ウィンザー効果:仲間関係への応用
やんちゃな行動の裏には必ず「仲間への影響力」が隠れています。これは、多かれ少なかれ、経験上「ほぼ確実に」あると思ってます。
一見「孤独な狼」に見えても、そこには少なからず「他人からの見え方」への関心が隠れている。これは「社会的承認欲求」という心理効果から、納得できる点は多いんじゃないでしょうか。
前回お伝えしたウィンザー効果(第三者からの情報の方が深く響く心理効果)。これを「仲間同士」に応用することで、やんちゃグループ内部の関係性を変えることができます。
ちなみに、これは「グループ内」だけで言えることでもないです。クラスの子、誰にでも応用できるし、誰に言われても嬉しいもの。今回は「やんちゃグループ」という内容に絞ってお伝えしますね。
- 「ただ騒ぐ関係」から「認め合う関係」へ
- 「破壊的エネルギー」から「建設的エネルギー」へ
- 「問題グループ」から「学級の推進力」へ
この転換こそが、真の教育なんです。
実例:「点と線をつなぐ」重要性
前回の協力者ネットワーク後の状況
前回のおさらいです。協力者ネットワークで監督・保護者・学年主任を協力者に変えた結果、ユウトくんは「みんなが応援してくれている」ことを実感し始めました。
確かにユウトくんの授業態度は改善されました。
「こんだけやったんだから、もう大丈夫だろう」。でもこれは、完全に「自己満足」でした。
今なら分かることですが、「1つの働きかけ」「一回の行動」のみで人が変わるなんて、基本的にはありえません。そうやって思い上がってしまったとき、私はユウトくんに対し、こう思ってしまったんです。
「アイツ…」「担任として、あんなに頑張ったのに、もうもとに戻ってるじゃないか…」。
そうです。この取り組みだけでは、ユウトくんの変化は限定的でした。つまり、「この時点での」友達との関係はまだ「ただ騒ぐ関係」のまま...
授業中の私語は、担任への気まずさから「多少」減ったものの、「周りの友達」はユウトくんの「内側の変化」にはまだそんなに気付いていないことが多いです。グループでいると、どうしても騒がしくなってしまう。
そうです。実は「周りの大人のスタンス」と「本人の自己認識」がほんのちょっと変わっただけでは、実は「環境」はそんなに変わってません。
教育は「点」ではなく「線」
教育は「点」じゃないです。何度も。いくつも。「点」をひたすら打っていって、それを「線」にすべく「結びつける」作業も行っていかないと「目に見える変化」にはならない。
そこをしっかり理解してないから「…アイツ、、、昨日あんなに強く注意したのに、もう今日は元通りになってるよ…」ということになってしまうのです。
ユウト君の自己認識を変える「点」。それに加え、今回は「周りの友達の認識を変える」という「点」を打たなくてはならない。そしてそれを、担任が「線」としてつなぐ作業が必要です。
転機:ある瞬間の気づき
ある日の休み時間、クラスメイトがユウトと話している場面を目撃しました。
「あれ?みんな、ユウトの話をちゃんと聞いてる...」
普段の授業中とは全く違う、自然な交流。その時初めて「仲間関係そのものを変える」ことの重要性に気づきました。
ウィンザー効果を仲間関係に応用する具体的手順
タイミングと場面設定が重要
まず重要なのは「いつ、どこで」伝えるか。
授業の合間、給食準備、休み時間など、ちょっとした空いた時間に数名の子に話しかけます。わざわざ「担任が話しかけに行く」というより、「近くにいるときの自然な雑談」として。
相手は、ユウトの友達でなくてもOK。むしろ普段接点の少ない子の方が効果的な場合もあります。
事前準備:担任の「観察眼」を変える
ここが最重要ポイント。教室において、「担任の視点」はどんなものにも勝る最重要な持ち物です。※以下にも詳しく書いてます。
「最近変化が見られた良いポイント」や「目立った変化は見られなくても、本人がちょっとでも『頑張ろうとしていること』」に担任が目を光らせ、捉えておくことが大事。
具体例:
- 「友達との話し方で、乱暴な言い方が減った」
- 「授業中に話す声が、周りの子のことを配慮するトーンになった」
- 「困っている子がいるとき、以前よりさりげなく声をかけるようになった」
- 「グループ活動で、自分の意見を押し付けずに相手の話を聞く場面が増えた」
- 「掃除時間に、率先して重い物を運んだり、みんなが嫌がる仕事を引き受けるようになった」
本当にちょっとしたことでもOK。大切なのは、担任がユウトの変化を「素敵な成長だ」と価値付けてあげること。これが教師の腕の見せどころ。
実際の伝え方:3つのパターン
「最近、ユウトくん頑張ってるよな。前は『黙れ!』とか『お前、キモw』みたいな悪い言葉遣いしてたけど。最近は、それを意識的に止めてる場面が増えてきたんだ」
「あと、友達が困ってるとき、以前は『知らねー』って感じだったけど、最近は『大丈夫?』って声かけてるの見かけるようになった」
「しかも、グループ作業のとき、前は自分の意見ばっかり言ってたけど、最近は他の子の話もちゃんと聞いてるよね」
「君たちは、そのこと、どう思う?」
ここで「別に」「え?そう?」「前と変わらないように見えるけど」と言われてもOK。とにかく「児童とは立場の違う担任が、本人の成長を感じられて嬉しい」という視点を共有することが大事なんです。
絶対に守るべき鉄則
嘘や作り話は絶対NG。
架空の話で褒められても本人はちっとも嬉しくないし、何より、嘘を広めることはちっとも「教育的」ではありません。
視点の力:見方が変われば世界が変わる
視点が変われば、見える景色が違ってくる。これは私たちも日常でよく経験していること。
- 「アルファード、かっこいいな…」と思い始めた途端、通勤中にアルファードが増えた経験はありませんか?
- 電車通勤なら「あのブランドのバッグ、素敵だな」と思った途端、同じバッグを持つ人が目につくように
- 街中で「あのカフェ、行ってみたい」と思った瞬間から、そのチェーン店ばかり見つけるように
子どもたちも同じ。担任が伝えた「ユウトの良い変化」という視点が少しでも伝われば、周りの子はそういった視点でユウトくんを見るようになります。
問題行動への現実的な対応
ちなみに、ここではユウトの「これまで通りの問題行動」については、いったん置いておきます。
問題行動についての言及は、これまでの学年でも本人は散々されてきたはず。それでも問題行動がそのまま現れているということは、「これまでとは違うアプローチが、彼にとって必要である」というサインです。
問題行動は、今回とは別のやり方で個別に対応していく必要があります。
3ヶ月後:周りがそれぞれ変化した実感
ユウト自身の変化
- 「認められている」実感から自己肯定感が向上、生活態度に安定感がでてきた
- 乱暴な言葉遣いが自然に減少
- 困っている友達への配慮が増加
- グループ活動での協調性向上
周りの子たちの変化
- ユウトの「良い面」に目を向ける視点が育つ
- 「友達の成長を認める」雰囲気がクラスに浸透
- 互いを認め合う空気感が自然発生
- クラス全体の温かい人間関係の基盤形成
ウィンザー効果の威力
- 「○○君が、ユウトの変化を認めてたよ」→「俺、ちゃんとしなきゃ」
- 友達からの評価が行動変容の強力な動機に
- 直接褒めるより深く心に響く効果
これが、「集団の力」「仲間関係を変える力」か…
と実感できる瞬間です。
学級全体への波及効果
この取り組みでは、周りの友達に「友達の良さに目を向ける視点」を伸ばすことにも繋がります。そういう意味で「周りの友達の成長」につながるし、それが「クラス全体のいい雰囲気」「認め合う空気感」を作り出すんです。
組み合わせの威力
重要なのは、これらの手法を単独で使うのではなく、組み合わせること。
前回の協力者ネットワーク: 大人を協力者に変える基盤作り
今回のウィンザー効果応用: 仲間関係の質的向上
結果: ユウトを中心とした学級全体の成長
この一連の流れが、やんちゃな子のエネルギーを学級の推進力に変える秘訣だといええうでしょう。
すべての子に必要な承認
基本的にこの方法は「できるだけ多くの子」にやったほうが良いです。当然、その「周りの子」にもやったほうが良いし、何なら「やるべき」。
なぜなら、基本的に人間は「承認されたい生き物」だから。「自分は認められている存在だ」「この場に居て良いんだ」という感情は、すべての子に必要なんです。
今回は「特定の子に向けた承認」のみを扱ってますが、これは、あくまで「子どもへの承認」の一例だと思ってください。
究極の学級経営への道筋
当然、始めからいきなりすべての子にはできません。が、教師は年間200日。1日8時間以上も同じ空間で、子どもと接します。
教師は、それを意識して継続することで、確実に「全員に同じ視点を向けられる」ことに繋がります。それが「究極の学級経営」だと、個人的には思っています。
経験豊富な先生でも見落としがちな「仲間関係の力学」。固定観念にとらわれない私たち若手教師だからこそ、新しい可能性を見つけることができるのかもしれません。
前回の協力者ネットワーク + 今回のウィンザー効果応用 = 学級の推進力
単独の手法ではなく、組み合わせることで「目に見える変化」が実感できる。
人の成長をサポートするのは簡単なことではないですが、担任の意識を変えることで、確実に違った景色がみえてくるようになります。
PS.
実は私、前回の記事でお伝えした協力者ネットワークだけで「もう大丈夫」だと思っていました。ユウトくんの生活態度に、少しではあるけれど、でも「確実に」。変化が見れれたからです。「こんだけやったんだから、もう大丈夫だろう」。でもこれは、完全に「自己満足」でした。そう、情けないですが、先にも出したこの状況は、「過去の私の失敗」です。
今なら分かることですが、「1つの働きかけ」「一回の行動」のみで人が変わるなんて、基本的にはありえません。そうやって思い上がってしまったとき、私はユウトくんに対して、こう思ってしまったんですね。
「アイツ…」「担任として、あんなに頑張ったのに、もうもとに戻ってるじゃないか…」。
つまり、この取り組みだけでは、ユウトくんの変化は限定的でした。つまり、友達との関係は相変わらず...
「なんで仲間といると騒がしくなるんだろう?」
そんな疑問を抱えていた時、ふと気づいたんです。大人は味方につけたけど、肝心の「仲間関係」はそのまま放置していたことに。
ある日の体育の時間、ユウトがクラスメイトと自然に協力している場面を目撃しました。
「あれ?こんなに自然に関われるんだ...」
普段の授業中とは全く違う、責任感のある表情。その時初めて「仲間からの認識を変える」ことの重要性に気づきました。
「担任の意識を変える」「子どもの少しの変化を見逃さない」
この2つを身につけると、全ての教育活動において、教師自身が変わっていきます。
教師は年間200日、1日8時間以上も同じ空間で子どもと接します。それを意識して継続することで、確実に「全員に同じ視点を向けられる」ことに繋がる。それが「究極の学級経営」だと、個人的には思っています。
その後、ユウトを中心とした「認め合う空気」が学級に根づきました。困っている友達がいれば率先して助けに行き、グループ活動では他の子の意見もしっかり聞く。
「先生、今度のグループ発表、俺たちのチーム、みんなで協力できてるんすよ!」
そう嬉しそうに報告してくれたユウトを見ていると、あの時「孤立させよう」と考えていた自分が本当に恥ずかしくなりました。
もちろん、今回のウィンザー効果応用だけで劇的に変わったわけではありません。前回の協力者ネットワーク、そして今回の仲間関係活用...これらを組み合わせた結果です。
実際、これまでの記事でもお伝えしてきた通り、子どもの成長は一つの方法だけでは実現できません。様々な角度からのアプローチを組み合わせることで、初めて本当の変化が生まれるんです。
当時は、ユウト以外の子たちにも同じような「承認の視点」を向けるよう心がけていました。一人ひとりの小さな成長を見つけ、それを周りの子に伝える。時間はかかりましたが、クラス全体が「認め合う空気」に包まれていくのを実感していました。
もちろん、彼への注意が完全にゼロになることはありませんでした。その後も、何度も個別で話をしたこともあります。
でも、それ以降彼が私の話を「流し聞き」することはなかったように感じます。過去記事で書きましたが、それはこういう状態だったからだと思います。 ↓
もしあなたも今、やんちゃグループの対応で悩んでいるなら、まずは前回の協力者ネットワークから始めてみてください。そして基盤ができたら、今回のウィンザー効果応用を試してみてください。
きっと、これまで見えなかった子どもたちの輝きが見つかるはずです。
そして、もし「うまく組み合わせられない」「学級全体への応用の仕方が分からない」「個別の状況に応じたアドバイスが欲しい」と感じることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
一人で抱え込まず、一緒に子どもたちの可能性を見つけていきましょう。
※ご質問やご相談がありましたら、プロフ画面のアドレスよりお気軽にご連絡ください^^