「間接的な褒め」が効く理由:教師・保護者・子どもがWin-Win-Winになる方法
「子どもに注意して嫌われたらどうしよ…」
「厳しく言って、陰口言われるのとかマジで嫌…」
正直に言いましょう。
私も、あなたも。
この感情からは逃れられません。
そして、この恐怖こそが「監督に言うよ」「お母さんに連絡するよ」という他人を使った脅しに走らせる根本原因なんです。
以前の記事で、私は「弱み利用=脅迫」
という問題を指摘しました
※以下の記事です。
でも、問題を指摘するだけでは解決にならない。
批判だけでは前に進めません。
そこで今回は、嫌われるのを恐れる若手教師でも実践できる解決策をお伝えします。
「怖い監督」「子どもが恐れる保護者」は
考え方を変えれば、その子に
最も大きな変化を与えられる人物です。
つまり、その子にとっての「何者か」
であるわけですね。
今回は、その「何者か」である人物を
「学級経営の強い味方」と捉え、
それにより、子どものポジティブな変化を
引き起こす考え方について書いていきます。
・監督、親、他クラス教師が「怖い存在」から「認めてくれる人物」に。
・その子に関わる全員にとってWin-Win-Winになる連携の仕方。
・担任が「悪者」にならずに、効果的な指導ができる考え方。
この記事を読めば、他の教師や保護者との連携で子どもを支える仕組みが作れます。
そして「注意する=嫌われる」の恐怖から解放される。
子どもにとっても大人にとっても、みんなが幸せになる関わり方について書いていきます。
なぜ「根回し」が効果的なのか
今回紹介するのは、平たく言えば
「根回し」の技術
とも言えるやり方です。
言葉の響きもあって、あんまり
良いイメージは無いかも知れませんね^^;
ですがこの「根回し」。
経験上、子どもの自己肯定感を高めて
本人の強みを伸ばしていくうえで、
かなり高い効果を発揮します。
見た目( = 聞いた感じ)は良くないかも知れませんが
自信をもってオススメできる方法です。
ここで質問です。
ウィンザー効果って知ってますか?
これは、第三者からの情報の方が直接的な情報より信頼度・影響力が高くなる心理現象のこと。
つまり、あなたが直接「頑張ってるね」と言うより、「監督が君のこと褒めてたよ」と伝える方が子どもの心により深く響く。みたいな心理効果のことです。
今回は、このウィンザー効果を活用して、みんなが幸せになるWin-Win-Winの関係を作る方法をお伝えしていきます。
「悪者恐怖症」の正体
若手教師が陥りがちな心理的な罠があります。
それは「厳しい=嫌われる」という思い込み。
「厳しいことと、嫌われること」は関係ない(むしろ、厳しい先生は児童から好かれやすい)ということについては、今回は置いておきますが、
この「厳しく叱ったら、子どもから嫌われてしまうんじゃないか?」という恐怖が「他人任せの脅し」を生み出すメカニズムになっているんです。
でも、考えてみてください。
本当に「厳しい指導」と「脅し」は同じでしょうか?
全く違います。
厳しい指導は、子どもの成長を願う愛情から生まれるもの。
脅しは、教師の恐怖心から生まれる逃避行動。
この違いを理解することが、第一歩なんです。
「脅しツール化」が生む悪循環
従来の方法では、監督や親が「怖い存在」として利用されてしまいます。
これは三者(教師・監督・親)全員が不幸になる構造。
つまり、誰も得をしません。
子どもは「大人不信」に陥り、長期的に見て大きな悪影響を与えてしまう。
一方、「協力者に変える」による好循環では、事前の根回しで関係者全員が子どもの成長を支援する体制を作れます。
間接的な褒めが直接的な褒めより強力に響く。
教師も「悪者」にならず、むしろ信頼が深まっていく。
これが、ウィンザー効果を活用した連携システムの威力なんです。
若手教師にこそ必要な理由
経験不足を「連携力」でカバーできる。
単独での指導より、チーム戦の方が効果的。
そして、連携システムは教師人生全体で活用できる財産になります。
職員会議での提案、保護者との関係構築、同僚との連携。
あらゆる場面で応用できる、教師の基本スキルなんです。
ユウトくんの変化と根回しシステム
具体的な事例を通して、この方法の効果を見ていきましょう。
ユウトくんの初期状態
授業中の私語、立ち歩き、友達への悪影響。
野球部では頑張っているのに、学校では問題行動ばかり。
従来なら「監督に言うよ」で脅される典型的なケース。
でも、ここで立ち止まって考えてみました。
本当にユウトくんは「問題児」なのか?
野球部では真面目に練習に取り組んでいる。
友達思いの一面もある。
なぜ、教室だけで問題行動を起こすのか?
この疑問から、新しい見方で彼をみていく必要が出てきました。
根回しによる「協力者に変える」3ステップ
ステップ1:情報収集と関係者把握
まず、ユウトくんの良い面をいろんな角度から見てみました。
野球での頑張り、友達思いの一面、家庭での責任感。
そして、彼を取り巻くメインの大人を考えていきます。
野球監督、保護者、学年主任。
ユウトくんからしたら「意外な人物」も混ぜると良い。
たとえば学年主任とかを混ぜると、ちょうどいい「意外感」が出るんです。
「え、学年主任の先生も俺のこと知ってるの?」
この驚きが、子どもの心を動かすきっかけになります。
野球の練習を見学し、ユウトくんのプレーの良さを発見。
監督との雑談で、ユウトくんの練習態度の真面目さを確認。
保護者面談で、家庭でのユウトくんの責任感ある行動を把握。
この段階では、まだ「情報収集」。
でも、すでに私の中でユウトくんへの見方が変わり始めていました。
ステップ2:関係者との事前調整(根回しの本質)
監督との連携構築
「監督、いつもお疲れ様です。」
「ユウトくんのことでご相談があるのですが...」
「実は学校でも、野球で見せているような集中力を発揮してもらいたくて。野球部での彼は、本当にイキイキしている。」
「…一体、監督はどうやって彼をここまで育てたんですか?」
このとき、重要なポイントがあります。
「野球部での彼は、本当にイキイキしている」
「一体、監督はどうやって彼をここまで育てたんですか?」
この質問で、かなりの確率で「監督の教育観」も語ってくれるんです。
もちろん、積極的にユウトくんの成長にも関わってくれるようになります。
保護者との信頼関係構築
「ユウトくんは本当に素敵な子ですよね。」
「最近でも、こんなことを頑張ってて…ユウトくんって、家庭でどんなお子さんなんですか?」
「実は学校でも、家庭で見せているような責任感を引き出したいと思っていまして...」
監督のときと同じように、先に「ユウトくんは本当に素敵な子ですね」「最近でも、こんなことを頑張ってて…」と、担任からみたユウトくんの良さを先に強調しましょう。
良さを伝える → 「想い」を引き出す。
この順番が、信頼関係構築の鍵なんです。
学年主任との情報共有
「ユウトくんの件で、チーム戦で支援していきたいのですが、」
「○○先生から見たユウトくんの可能性ってどんなところにあると思いますか?」
ここでも同じように、「担任が先にユウトくんの良さを伝える」ことが最大のポイント。
もうお気づきかもしれませんが、この「みんなが幸せになる方法」が成功するためのポイントは、何よりも
「担任が、ユウトくんの良さと可能性を心から信じること」
「ユウトくんの強みを見つけ出す視点」
からすべてが始まるんです。
「あいつはクラスを乱す敵だ」という視点では、このやり方は成立しません。
やんちゃは敵ではない。
逆に、敵だと感じるのは、担任自身が「敵だ」と決めつけてかかってるところから全て始まっているんです。
※以下でも詳しく説明しています。
これが、この方法の最も重要な前提条件。
ステップ3:「褒めツール」としての活用(ウィンザー効果の実践)
従来の脅し方式: 「ユウトくん、また立ち歩いて!監督に言うよ!」
根回し後の協力方式: 「ユウトくん、昨日監督から聞いたよ。練習で後輩の面倒をよく見てるって。教室での君も、そうだよな。昨日、○○くんにも同じように接してたろ?普段なかなか目立たないけど、そういうのが君の本当に素敵なとこなんだよな」
ここでのポイントは「野球部で出来てるんだから、クラスでもそうしてくれよ」と頼むのではない、ということ。
彼に頼んで優しくなってもらうんじゃなくて、「優しくしているところを教師が確実に見つけて、その良さを率直にフィードバックしてあげること」なんです。
効果の違いは歴然。
脅し方式:一時的な従順、関係悪化、監督への不信
協力方式:自己肯定感向上、継続的な行動改善、大人への信頼
この差が、子どもの未来を大きく左右していきます。
根回しシステムの成果
これも前回触れたように「この方法でガッツリ変わった!」というわけではないです(たぶん)。
この取り組みのあと、一番先に彼に起こる感情は「こんなに褒められたのに、その直後に悪い態度をするのは、さすがに気まずい…」かもしれません(たぶん)。
人間、一度で劇的に変わることなんて、大人でも難しい。
何度も繰り返し意識して、実践して、失敗して。
そうやって少しずつできるようになっていく。
それを継続して、変わっていくもの。
だから、変わるきっかけは何でも良いと思うんです。
実際に、ユウトくんはその1年で、大きく成長してくれました。
授業態度が徐々に改善。
野球と学校の両立意識が向上。
監督・保護者・教師の連携が強化。
ユウトくん自身が「みんなが応援してくれている」を実感。
小さな変化の積み重ねが、大きな成長につながっていくはずです。
他の場面への応用
例えば他には、音楽の先生や部活顧問との連携、家庭学習での保護者との協力など、そんな感じの応用ができるでしょう。
でも、基本的な考え方は同じ。
子どもの周りにいる大人を「協力者」に変える。
その子の良い面を見つけ、共有し、みんなで支えていく。
これが、根回しシステムの本質です。
教師は一人で戦う必要はありません
子どもの周りにいる大人を「脅しの道具」ではなく「協力者」に。
事前の根回しとウィンザー効果で、全員がWin-Win-Winになる支援体制を。
「嫌われる恐怖」から解放され、自信を持って指導できる。
これが、今回お伝えした方法の目指すところです。
経験不足は「連携力」でカバーできます。
一人で抱え込まず、チーム戦で子どもを支えましょう。
あなたの誠実な気持ちは、必ず関係者に伝わります。
まずは一人の子について、彼を取り巻くメインの大人を考えてみてください。
その子の良い面を、関係者から聞き出してみてください。
きっと、新しい可能性が見えてくるはず。
あなたの教室にも、きっと変化が生まれるはずです。
追伸
前年度担任から「ユウトくんは野球部の監督を恐れてる。監督の名前言えば言う事聞きますよ」と引き継がれた時、正直、とても違和感を覚えました。
思い返せば、私自身も新任時代に同じようなアドバイスをもらったことがあります。
「あの子は母親を呼ぶと泣き出すから、『お母さんに言うよ』で黙らせられるよ」と。
当時は経験不足から、一度だけ試してしまいました。
確かに、その子は黙りました。
でも、その瞬間の彼の目に浮かんだ「裏切られた」という表情が、今でも忘れられません。
そこから生まれたのは「言うことを聞く子ども」ではなく、「心を閉ざした子ども」でした。
その後、彼との関係修復に何ヶ月もかかったのです。
実はこの経験が、私の教育に対する原点となっています。
「弱みに付け込む」ではなく「強みを活かす」
「脅し」ではなく「協力」
これは1人の教師として、また親として、大切な第一歩目だったと思います。
今、教室で苦戦しているあなたにも、ぜひ「やんちゃ=問題児」という固定観念から抜け出してほしい。
その子の中にある強さ、可能性、エネルギーを見つけ出してください。
私は日々、現場で子どもたちと向き合いながら、こうした教育の理想と現実の間で葛藤しています。
このブログが、同じ思いを持つ教師の方々との接点になれば嬉しいです。
関係者との連携で悩んでいる方、「この子の場合はどうすれば?」という個別相談。
一人で悩まず、相談してみませんか?^^
私も、まだまだ学びの途中です。
一人でも多くの子どもたちが、自分の強みに気づき、輝ける教室づくりを、一緒に目指しましょう。