"勝ち負け"ではなく"強み"を引き出す対応:やんちゃな子の内側から変化を生む3つの質問のコツ
「授業、ツマんね…」
「どうせやっても無駄だし」
「…ボソッ…(また俺のせいかよ…)」
こういう言葉、聞いたことありますか…?
面と向かって言われたことのある教師なら分かるはず。
ガチで、ヘコみませんか…?
授業中に立ち歩く。
私語が多い。他の子にちょっかいを出す。
注意してもその場しのぎで、また同じことを繰り返す…
あなたのクラスにも、そんな
「やんちゃな子」がいるとしたら、
あなたには私と同じ地獄は
絶対に味わってほしくないです…
私が陥ってしまった間違いは
「この子をなんとか言うことを聞かせるには?」
「クラスの秩序を守るには?」
「周りの子が迷惑しないようにするには?」
こんな視点で対応を探していたこと。
こうなってしまうと、「ある答え」に
たどり着いてしまうことがあるんですね。
それが、以下のようなもの。
「担任として、彼より強いボスになるにはどうすれば…?」
「…そうか、…」
「彼に勝負で勝てば良いんだ…」
「勝てる勝負を仕掛けよう。それで、キッチリ勝利しよう」
「クラス全員の前で、しっかりと彼に『負け』を認めさせるんだ…!」
こうなると、もう「地獄」の始まりです。
もし実際にこういった対応をしたことがある方も、
ちょっと立ち止まって考えてみてください。
こんな「勝負」の後、
子どもの目はどう変わりましたか?
表面上は「言うことを聞く」ようになっても、
内面では教師に対する信頼を失っていないでしょうか?
私自身、若手の頃にこの罠にはまりました。
「勝負」に勝っても、子どもの心は遠ざかるばかり。
教室に漂う沈黙は、決して成功とは言えませんでした。
今日は、そんな「勝負」による制圧ではなく、
やんちゃな行動の裏に隠れた『強み』に目を向ける方法をお伝えします。
本記事で紹介する『3つの質問のコツ』を知れば、問題行動の裏に隠れた子どもの強みを見つけ出せるはずです。
この視点の転換こそが、表面的な「制圧」ではなく本質的な「成長」を促す教室を作る鍵。
子どもの内側からの変化を引き出す秘訣なのです。
※本記事は、以下の実践編という位置づけです。多くの反響があり驚いています。あわせて読むと今回の内容はより深く理解できるので、本記事の前に読むのがオススメです。
やんちゃの本質を理解する
やんちゃな行動、それは単なる「悪さ」ではありません。
子どもが持つ強みや才能が、
適切な出口を見つけられていない状態、と
捉えてみることが全てのスタート。
考えてみてほしいのです。
子どもは皆、
「認められたい」
「自分の存在価値を示したい」という
根源的欲求を持っているもの。
授業や日常の学校生活でその欲求を満たせないとき、別の形で存在感を示そうとするのは自然なこと。
当然の心理といえるでしょう。
※「✨️子どもはみんな天使だから✨️」というキレイゴトを言うつもりはなく、「人間の本能/根源欲求だ」という理解で読み進めてください。
「やんちゃな子」と「優等生」の違いは、才能の有無ではなく、その才能の「表現方法」の違いなのかもしれません。
「勝負に勝つ」という、子どもを制圧するアプローチには
根本的な欠陥があります。
確かに、子どもとの「勝負」で勝てば一時的な静けさを得られるかもしれません。
でも、その瞬間から子どもの内面では反発が強まっていることに気づいていますか?
子どもを「敵」と見なすその視点が、
信頼関係の構築を
根本から妨げているともいえます。
表面的な問題行動だけに目を向けていると、その子の持つ可能性を永遠に見失ってしまう。これは教育の本質からの逸脱です。
一方で、「強み」に注目するアプローチには、ある研究によれば、科学的な裏付けもあるそうです。子どもの自己肯定感が高まると、問題行動は自然に減少するというんですね。
長く子どもたちと関わっていると、それが「事実なんだ」ということが、自然と納得できるようになりました。強みを活かす場があると、子どもはそこに全力を注ぐようになる。
私の肌感覚としても、この変化は多くのケースで強く実感してきました。
「子どもはみんな違うんだから、そんなハズはない!」
と思われるかも知れませんが、やはり、そこは「科学」。
「本能」「脳の構造上の問題」なんですね。
だから、子どもが「自分も認められるんだ…」と感じたとき、内側から変わり始めるのでしょうね^^
ではさっそく、やんちゃな子の強みを見つけ出す「3つの質問のコツ」をご紹介しましょう。
それは
【コツ①】「好き」を糸口にする視点
【コツ②】非言語反応を読み取る視点
【コツ③】「教える立場」に引き上げる
です。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
私の教室での事例をもとにして説明していきますね(児童は、仮名です)。
【コツ1】「好き」を糸口にする視点
やんちゃな子に「得意なことは?」と聞いても、うまく答えられないことが多いですよね。
でも、「好きなことは?」と聞くと、意外とすんなり答えてくれるもの。この小さな違いが、会話の質を変えます。
この「好き」と「強み」には、実は深い関係があって。
「好き」の中には必ず「強み」の種が隠れていたりします。
人は好きなことには自然と時間を使い、知識も技術も自ずと身についていくから(だと思ってます)。これは子どもも大人も変わらない。
私のクラスにいたコウタ君も、授業中の私語が多く、立ち歩くことも少なくなかった子でした。ある日、休み時間に彼と話す機会があり、こんな会話をしました。
私:「光太くん、学校で一番好きな時間って何?」
光太:「休み時間!あと図工」
私:「へぇ、図工も好きなんだ。何が楽しい?」
光太:「絵を描くの。キャラクターとか」
私:「すごいね!どうやったらそんな上手に描けるの?」
光太:(急に目が輝く)「目から描くと輪郭が描きやすいから、先に目の形を描いて…」 (絵の描き方を熱心に教えてくれ始める)
このような「好き」を探る質問は、子どもの内面に眠る強みを見つける第一歩。発見への入口といえます。
「学校の中で一番好きな時間は?」という質問からは、教科の好みだけでなく、その子の活動タイプの好みが。
「休み時間に何するのが好き?」という問いからは、社会性や表現力についての強みが。
「家でどんなことをして過ごす?」と聞けば、学校では見えない家庭での強みが。
それぞれ見えてくるかもしれません。
ぜひ明日から、気になる子に「好き」から始まる会話を試してみてください。その小さな一歩が、大きな変化の始まりになるはずです。
【コツ2】非言語反応を読み取る視点
子どもの言葉だけを聞いていては、本当の強みを見逃してしまうことがあります。
実は言葉より正直なのは「体の反応」。
先ほどの光太との会話を振り返ると、
彼の非言語反応から多くのことが読み取れました。
・「図工」という言葉を出した瞬間の表情の変化
・「どうやったら」と聞いたときの姿勢の変化(前のめりになる)
・絵の描き方を説明する際の声のトーンの高まり
・手振りが増え、身体全体で表現し始める様子
これらは全て、彼の内面に眠る
「強み」が表出した瞬間だと思うんですね。
教師が絶対に、見逃してはならないサインです。
非言語サインを見落とさないためには、会話中の「間」の取り方がとても重要。
質問をした後の0.5秒(くらい。難しいですが、、、)が、
実は最も重要な観察ポイント。
この短い瞬間に、子どもの本音が顔や体に現れるから。
普段から子どもの身体全体を見る習慣をつけていると、強みの発見がぐっと増えてきます。
例えば、授業中に飽きてきた子どもは、
「脚」が動いてきたりします。
「肘をつく」のは分かりやすいサインですよね。
特に朝の会、給食、清掃時間など、教科学習以外の場面で子どもをよく観察してみましょう。思わぬ強みが見つかるかもしれませんよ。
子どもの目の輝きを見逃さない。
これが教師の目利き力といえるでしょう。
子どもの可能性を広げる重要なスキルだと思っています。
【コツ3】「教える立場」に引き上げる
やんちゃな子の強みを見つけたら、次は「教える側」に立ってもらうことで、驚くべき変化が起きることがあります。
これは単なる「得意なことで褒められる」以上の変化をもたらします。
やんちゃな子って往々にして「注意される対象」ですよね。
たぶん、多くの場合、それまでの学年でも注意される経験をしてきたんだと思うんです。
でも「教える側」に立つことで、役割が180度転換するんですね。
今まで「先生 VS 自分」だった関係が
「先生と自分 VS 課題」という
協働関係に変わるのです。
教えるという経験を通じて、他者視点の理解も深まります。だからクラスでの問題行動も自然と減っていくことが多いんです。
もちろん、教師との関係性も質的に変化します。
「注意する-注意される」関係から
「認め合う-協力する」関係への転換。
教師からの「指示」ではなく「依頼」という形式が、子どものプライドを守る。
おそらく、この微妙な違いが大きな変化に繋がっているんだと思います。
そして教える活動後の教師からの具体的フィードバックが、さらに自己肯定感を高めていきます。
これまでのいくつかの記事でも、何度も
「教師は、児童にとって何者かになるべきだ」
と伝えてきました。例えば、以下です。
こういった関わりを通して、
教師は子どもにとって
「信頼できる協力者」という「何者か」
になっていくんだと思っています。
例えば、光太くんの場合はこうでした。
コツ1と2で見つけた光太の図工の才能を活かすため、クラス内でのミニティーチャーを提案したときのことです。
「光太くん、次の読書感想画の単元のことだけど」
「絵に苦手意識もってる子も、光太くんの描き方なら自信持てそうだな、って思うんだ。」
「彼らに、コツを教えてあげてくれないかい?」
最初は恥ずかしがっていましたが、実際に教える立場になってみると、驚くほど熱心・丁寧に。そして、分かりやすく(?笑)説明できたんです。
3つのコツを通して、彼には次のような変化が見られました。
・授業中の私語や立ち歩きが減少
・他の授業での集中力も向上
※これは、光太の能力がグンっと向上したというよりは、教師との関係性や彼自身の周囲への配慮の向上により、「騒がしくするのが気まずくなった」と表現するのが適切かもしれません…笑
・クラスでの立ち位置が変わりはじめた
・「コウタは問題児」から「コウタの絵はすごい」「優しく教えてくれる」へ、周囲の見方が変化
など。これらにより、彼自身の自己認識も少しずつ書き換えられていったように思います。
そして自己肯定感の高まりが、別の場面にも波及していったのでしょう。
ただし、この方法にも注意点があります。
「教える立場」に立たせる際には、適切なサポートが必要です。
丸投げは絶対にNG。
孤立させてはいけません。
「優しく教えることができる」のは、本人に「余裕があるから」できること。
人への教え方も、適切な言葉遣いも分からない状態で、「友達に教えてあげて」と言っても、普通にかなり難しいです。
当然、一回目でうまくいくわけでもありません。
大事なのは「慣れ」と「何回も繰り返す」こと。
教師は、それができるための環境づくり
に注力するイメージです。
私も初めて実践したときは失敗しました。
「ほら、早く教えてあげて」と急かしてしまい、
子どもを萎縮(どちらも)させてしまったことがあります。
また他の子どもたちへの事前説明も重要です。
嫌がらせやからかいを防ぐためにも、クラス全体への働きかけが必要。
これは成功の鍵です。
成功体験をクラス全体で共有する工夫も大切ですし、時間や場所の設定における現実的な制約にも配慮が必要でしょう。
理想と現実のバランスを取りながら、一歩ずつ進めていくことが大切なんですね。
あなたの教室に必要なのは「勝負」ではない
この「3つの質問のコツ」は、教師としての会話の質を根本から変える視点です。
やんちゃな行動に対して「無理やり設定した勝負に勝って、やんちゃを制圧する」より、その子の「強み」に光を当てることで本質的な変化を生むことができます。
どんな子にも必ず強みがあります。それを見つけ出し、活かすことで子どもは内側から変わり始めるのです。
もし、いきなり「強み」と捉えるのが難しい場合は、「好き」でもOK。また、その「好き」を無理やり今回の事例に当てはめようとしなくても大丈夫です。
とにかく、まずは
「やんちゃ君を敵とみなさない」
「基本的に、子どもは変化できる」
という視点を持つことが、
今回伝えたいことの本質。
この視点の転換が全てです。
この視点があれば、若手教師でも、腕力や経験に関係なく、子どもの心に届く関わりができるはず。
明日からでも始められます。
あなたのクラスの「問題児」の中に眠る強みを見つけるための第一歩を踏み出してみませんか?^^
その一歩が、あなたと子どもの関係を。
クラスの空気を。
そして教育の未来を変えていく。
その可能性を信じています。
PS. 私が若手時代に痛感した「勝負の罠」と、強みを見つける喜び
前回の記事でちょっと書きましたが、私は、「あるやんちゃ児童」に腕相撲の勝負をしかけました。そしてそれは、「取り返しのつかない大失敗」に終わってしまいました(詳しくは過去記事を御覧ください)。
この経験から、私は強く反省することになります。
それから数年後、別のクラスで同じように手を焼いていた子がいました。でも今度は「勝負」ではなく、「好き」を糸口にした会話から始めてみたんです。
『休み時間って、何してるの?』
「友達とサッカーしてる」
『へぇ、サッカー好きなんだ。上手?』
「まあまあかな」
『どんなプレイが得意?』
みたいな、何気ない会話。でもそこから彼の目が輝き始めました。サッカーの話になると饒舌になり、戦術や技術について詳しく説明してくれたんです。
そして体育の時間、サッカーのミニ先生として、他の子にパスの出し方を教えてもらいました。最初は恥ずかしがっていましたが、少しずつ自信を持って教える姿が見られるようになりました。
何より印象的だったのは、彼が「教える側」に立った時の表情です。その真剣さと誇らしさは、今でも鮮明に覚えています。
それからクラスでの彼の立ち位置が少しずつ変わっていきました。「困った子」から「サッカー上手な兄貴肌」みたいな感じに。もちろん全ての問題行動がなくなったわけではありません。が、確実に変化が始まったんですね。
子どもの見方が変わると、教師である私自身の視点も変わりました。「問題行動」の裏にある「強み」を探す習慣がついたのです。
この視点の転換こそが、私の教師人生を変えました。
子どもは「敵」ではありません。どんな子の中にも可能性は溢れているものです。それを潰さず、見つけ出す喜びこそ、教師という仕事の醍醐味ではないでしょうか。
もし、あなたのクラスの子どもたちの「強み」の見つけ方や活かし方について、もっと詳しく知りたいことがあれば、いつでもご相談ください。私の知見を活かして、一人ひとりの子どもの可能性を最大限に引き出すお手伝いができれば嬉しいです。