「褒め」に頼らない信頼構築法:本物の『承認』が子どもを動かす理由と実践例
「先生って褒めるとき、心こもってないよね笑」
小学4年生の女の子が放課後、私にこう言った瞬間、私の教師としての「常識」は崩れ去った。
何百回も「褒めて伸ばしましょう」「たくさん褒めることが大切です」と研修で聞かされてきた教師のあなた。
「褒めれば子どもは変わる」という幻想が、実は現場では通用しないことに、もう気づいているはずだ。
では、明日の教室で、あの「やんちゃ君」とどう向き合えばいいのか?
「褒める」に頼らず、子どもの心を本気で動かす方法があります。
それは「本物の承認」。
単なるテクニックではなく、子ども自身が「もっと良くなりたい」「挑戦してみたい」と内側から湧き上がる意欲を引き出す関係性を築く方法です。
明日の教室から、すぐに使える具体例をお伝えします。
※本記事は以下の続編、というつくりになっています。前編もあわせて読むことで、より理解が深まると思います。
「褒める」と「承認する」は、どう違う?
あなたはこれまで、おそらく数えきれないほど「褒めなさい」「褒めて育てましょう」「褒めることが大切です」と言われてきたことでしょう。
私も同じでした。
教員養成課程で、初任者研修で、ベテラン教師から…。
「褒めること」は、まるで教育界の鉄則のように教えられてきました。
でも、待ってください。
あなたは本当に「褒める」ことの本質を理解していますか?
「褒める」と「承認する」の違いを、まずは明確にしておきましょう。
「褒める」の限界
「褒める」とは、子どもの行為や結果に対して「いいね!」「すごいね!」と評価を与えることです。
これは一時的な喜びや達成感を与えることはできますが、いくつかの限界があります:
- 子どもは外発的動機づけ(褒められるために行動する)に依存しがち
- 繰り返すうちに褒め言葉が当たり前になり、効果が薄れる
- 子どもの鋭い「ウソ臭さ探知レーダー」が、不自然な褒めを見抜いてしまう
特に最後の点は重要です。
子どもたちは、私たちが思っている以上に敏感です。
教師が「言うことを聞かせるため」に褒めていると感じれば、心を閉ざしてしまいます。
「承認」とは何か
一方、「承認」とは、子どもの存在そのものを丸ごと受け止め、価値あるものとして認めることです。
これは行為や結果に対する表面的な評価ではなく、もっと深いレベルでの関わりを意味します:
- 子どもの行動だけでなく、その背景にある思い・努力・成長を見る
- 「褒める」以外の多様な関わり方(認める、労う、感謝する、本音で語る、適切に叱るなど)
- 教師と子どもの間に生まれる、本物の信頼関係
マズローの欲求階層説でも、「承認欲求」は人間の基本的な欲求として位置づけられています。
子どもたちも、単なる褒め言葉より、自分の存在が認められていると感じられる本物の関わりを求めているのです。
なぜ「承認」が効果的なのか
「本物の承認」が子どもの心を動かす理由は、心理学的にもしっかりと裏付けられています。
デール・カーネギーの『人を動かす』でも証明されているように、人は自分に誠実な関心を持ってくれる人に対して心を開きます。
これは「互恵性の法則」とも呼ばれ、真の関心は真の関心を呼び起こすのです。
生理学的にも、信頼関係を築く際には「オキシトシン」というホルモンが分泌され、絆を深める作用があることが分かっています。
つまり、本物の承認によって、教師と子どもの間に生物学的にも心理学的にも強い繋がりが生まれるのです。
明日からできる「本物の承認」の実践法
ここからは、明日の教室からすぐに使える「本物の承認」の具体的な実践方法をお伝えします。
特に意識しやすい2つの実践法を、徹底的に解説していきます。
1. 「認める」の実践
「認める」とは、子どもの言動や存在を丁寧に観察し、価値あるものとして受け止めることです。
子どもが普段「当たり前」だと思ってやっている行動にも、実は「認める」べき素敵なポイントが詰まっています。
【具体例】
授業中の場面での「認める」実践例:
発言が少ない子がようやく手を挙げたとき…
表面的な褒め方:
「はい!○○さん、発言できましたね!素晴らしい!」
(→周囲の反応:シーン)
本物の承認:
その場では「ありがとう、その考え方は面白いね」と受け止め、休み時間に「さっきの意見、実はすごく考えさせられたよ。特に〇〇という部分が面白いと思った」と静かに伝える。
休み時間での「認める」実践例:
友達と上手く遊べていない子に対して…
表面的な褒め方:
「一緒に遊べたね!エライ!」
本物の承認:
「○○くんと一緒に遊んでたの見たよ。あなたには友達への気配りができるところがあるよね。〇〇くんも楽しそうだったよ」
【効果の深掘り】
子どもは「認められる」ことで、次のような内面的変化を経験します:
- 「見てくれている」という安心感
- 「自分には価値がある」という自己肯定感の向上
- 「認められる自分」でいたいという内発的動機の芽生え
特に重要なのは、「認める」という行為が単発ではなく、継続的になされることです。
一度や二度では効果は限定的ですが、毎日少しずつ続けることで、子どもの内面に大きな変化をもたらします。
【応用の仕方】
「認める」は、さまざまな場面で応用できます:
- 休み時間の何気ない行動を観察し、後で伝える
- 提出物に短いコメントを添える
- 全体の場ではなく、個別の場面で伝える
- 子どもの「変化」や「成長」を具体的に言語化する
大切なのは、「普段から子どもをよく見ている」という姿勢です。
子どもたちは、教師の「観察眼」を敏感に感じ取っています。
2. 「労う」の実践
「労う」とは、努力のプロセスに焦点を当て、その苦労を理解し言葉にすることです。
「認める」と同様、「宿題を当たり前に提出する → 自分のすべきことに真摯に取り組んでいる。これは大人の世界でも必要な、大切な行為」のように子どもだけでなく教師も「当たり前」と思ってることにこそ、「労う」べき価値が潜んでいます。
【具体例】
テスト後の場面での「労う」実践例:
「頑張ったね!次は絶対できるよ!」
「解き方を探している途中だね。途中式を書こうとしたところが良かったよ。毎日問題集を解いてたの知ってるよ。すごく時間かかってたよね。結果が出なくて辛いだろうけど、その努力は間違いなく力になってる。どこが難しかったか一緒に考えてみない?」
運動会の練習で上手くいかない子に…
表面的な褒め方:
「頑張ってるね!もう少し!」
本物の承認:
「なかなかうまくいかなくて、イライラしてるよね。でも、あきらめずに何度も挑戦してるの、すごいと思う。コツをつかむまでが一番大変なんだよ」
【効果の深堀り】
「労う」ことで生まれる効果は計り知れません:
- 「プロセスに価値がある」という認識の獲得
- 挫折に強くなる「レジリエンス」の向上
- 「失敗しても大丈夫」という安心感
特に、子どもが何かに挑戦して失敗した後の「労い」は、その子の挫折耐性を大きく高めます。
「結果が出なくても、頑張ること自体に価値がある」という感覚を育てることができるのです。
【応用の仕方】
「労う」際の微妙なニュアンスと使い分け:
- 悔しさが強い場合は、まず感情を受け止める
- 「でも頑張ったね」ではなく「だから、その頑張りはすごい」と伝える
- 「次は」に焦点を当てるのではなく「今回の」努力に価値があることを伝える
- 具体的なプロセス(「毎日練習してたよね」「朝早く来て準備してたよね」)を言語化する
「労う」は、結果主義に陥りがちな学校教育の中で、子どもを守るとても大切な関わり方です。
「本物の承認」を深める他の視点
「認める」「労う」は比較的取り組みやすい入口です。「本物の承認」の形は実際には無数にありますが、さらに意識しやすいいくつかの視点をご紹介します。
それぞれ簡単な概要と一例をお伝えします。
「感謝する」
子どもの行動が自分や周囲にもたらした価値を伝えること。
【一例】掃除を手伝ってくれた子への効果的な感謝の伝え方
やんちゃな子が珍しく掃除を手伝ってくれた時…
表面的な褒め方:
「わぁ!掃除してるね!エライ!」
※この場合、「本物の承認」ではどんな言葉をかけますか?あなたなら何と伝えますか?ちょっと考えて見てくださいね^^
「本音で語る」
教師の仮面を外し、一人の人間として正直な気持ちを伝えること。
【一例】授業中の私語への本音の伝え方
授業中に私語が止まらないクラスで…
表面的な対応:
「静かにしなさい!」「話を聞ける人から帰れます!」
※あなたなら「本音で語る」場面で、どんな言葉をかけますか?現場のリアルを思い浮かべながら考えてみてくださいね^^
「適切に叱る」
行為と人格を分離し、期待を込めて伝える関わり。
【一例】対立場面での効果的な叱り方の入口
他の子をからかって泣かせた子に…
表面的な叱り方:
「そんなことをして、どうするんですか!もう二度としませんね?」
※「適切に叱る」視点で、あなたならどのように対応しますか?ぜひ自分なりの「本物の承認」を含んだ言葉を考えてみてください^^
※これらの視点には、子どものタイプ別の対応法や、クラスの状況に応じた調整法など、より詳細な実践方法があります。個別の状況に応じたアドバイスが必要な場合は、ぜひDMでご相談ください。
【追記】
「承認」がうまく伝わらない…と感じる場合は、「もっと、そもそもの問題」であることが原因かもしれません。以下でかなり詳しく解説しました。合わせて読むと、より理解は深まるのでオススメです。
「5月の学級崩壊」防ぎたければ、権威を示すな!『毅然とした態度』がやんちゃ君に逆効果である理由 - “ダメだった自分”を超えたいあなたへ
「本物の承認」で教室を変える
まず誤解のないように言っておきます。
「褒めるな」「褒めても意味ない」「褒め言葉を減らせ」と言いたいわけではありません。
子どもの素敵な行動はどんどん褒めて、その価値を伝えてあげるのが、人生の先輩である、大人の大切な役割です。
私が伝えたいのは、シンプルに「承認する」という意図を持って関わっていこう、ということですね。
そうすると、結果的に褒め言葉の総量は「相対的に」減るかも知れません。が、「本物の承認」と「子どもへのリスペクト」を含んだ教師の関わりは、爆増します。
つまり、「褒める」という単一の関わり方に依存するのではなく、「認める」「労う」「感謝する」「本音で語る」「適切に叱る」といった多様な関わり方のバランスを取ることが大切なのです。
実践のポイントをまとめると…
- 意識的に「褒める」以外の関わりを増やす
- まずは「認める」「労う」から始めてみる
- 日々の小さな場面で実践する
- その子の存在そのものを受け止める姿勢を持つ
- 行動や結果だけでなく、その子自身の持つ可能性を見る
- 「あなたという人間を丸ごと大切に思っている」というメッセージを伝える
- 教師という仮面を外し、人間対人間で向き合う
- 完璧を装わず、時には弱さや本音も見せる
- 「教師は人生の先輩である」「子どもがいま歩んでいる道は、過去の自分が歩んでいた道」という視点で向き合う
- 一貫性と継続性を大切にする
- 「本物の承認」は一日では効果が見えにくい
- 毎日少しずつ続けることで、教師の思考が劇的に変わる。その結果、子どもは確実に変わる
「本物の承認」を通じて見込める変化
子どもの変化:
- 自発的な行動が増える
- 内発的動機づけが高まる
- 教師に対する信頼感が深まる
- 自己肯定感が向上する
教師自身の変化:
- 教室が楽しくなる
- 子どもとの関係が深まる
- 教師としての喜びを実感できる
- バーンアウトのリスクが減少する
明日から始められる小さな一歩
「まずは一人の子どもに、一日一回の本物の承認を」
それだけでいいのです。
あの気になる子、あの苦手な子、あの手のかかる子…。
まずはその一人に、明日から「本物の承認」を実践してみてください。
その小さな一歩が、あなたの教室を、そして子どもたちの未来を変えていくはずです。
※以下の内容も、学校教育の本質を知る上で欠かせないと思っているので、あわせて読むとより詳細が見えると思います。投稿後、すぐにたくさんのスターを押して頂いた人気記事です(いつも読んでくださってる方、本当にありがとうございます^ ^ 励みになります!)
PS.
私がこの「本物の承認」に気づいたのは、実は大きな失敗があったからです。
3年目の時、あるクラスを担任しました。「褒める」という言葉を鵜呑みにして、ひたすら褒め続けた結果…
クラスは、完全に「冷え切って」しまいました。
最初は反応していた子どもたちも、次第に「褒め言葉」に慣れ、その価値が薄れていきました。褒められるためだけに行動する子、褒めても全く響かなくなる子、褒め言葉を完全に流す子…。
提出物は減り、授業中の私語は増え…まさに地獄でした。
「褒める」というテクニックは、完全に機能しなくなったのです。
ある日、放課後に残っていた一人の女の子が私に言いました。 「先生が褒めるときって、心こもってないよね笑」
その言葉にギクッッ…!としました。
褒め言葉という「おもちゃ」を振り続け、その子たちの本当の姿を見ていなかった。自分が楽をしたいから「褒める」というテクニックに頼っていた。子どもたちの鋭い「ウソ臭さ探知レーダー」に完全に見破られていたんだ。
その日から、私は変わりました。
「君がいる教室は、居ないときと比べてとても明るくなるよ。でも正直に言うと、その行動は嫌だな」 「解き方を探している途中だね。途中式を書こうとしたところが良かったよ」 「実は先生、今日すごく疲れていて、静かにしてほしいんだ。協力してくれる?」
こんな風に、建前ではなく正直な気持ちを伝える言葉で子どもたちと話し始めました。
最初は戸惑った顔をしていた子どもたち。でも、2週間もすると、少しずつ変わってきたんです。
特に印象的だったのは、クラスのトラブルメーカーだった男の子。ある日突然、休み時間に「先生、これ見て」と、算数の問題を解いたノートを持ってきたんです。
「すごいじゃん!」と心から言うと、彼は照れくさそうに「先生が言ってたやり方、試してみた」と言いました。
その瞬間、「あ、繋がった」と感じました。彼の中で、私が「教師」ではなく「一人の人間」として認識されたんだと思います。
その後も様々な挑戦がありましたが、一貫して「本物の承認」を続けると、子どもたちの目が変わっていきました。
今、あなたも同じような悩みを抱えているかもしれません。
でも、大丈夫。一気に変えようとしなくていい。まずは一人の子、一日一回の「本物の承認」から始めてみてください。
その小さな積み重ねが、あなたの教室を、そして子どもたちの未来を変えていくはずです。
表面的な「褒めるテクニック」ではなく、こういった「本質的に子どもを認め、励ますアプローチ」「自立をサポートする言葉かけ」がもっと広がってほしい。そうすることで「教師ガチャ」に苦しむ子どもや家庭は減っていき、教育の仕事はもっと楽しくなる。本気でそう思っています。
子どもの可能性を本気で信じる教師の輪が、静かに、しかし確実に広がっていくことを願っています。