【よくある『やんちゃ対応』11の間違い】
Part⑩:やんちゃに長い説教は無意味です。短く叱って非を認めさせ、キレイさっぱり忘れてあげましょう!
"長い説教"は逆効果?伝わるのは「短い本音」だけ
「長い説教をせず、短く叱りなさい」
教師なら、一度は聞いたことがあるかもしれないこの言葉。
「ダメなことをやった場合は、短く叱って、気持ちよく自分の否を認めさせる」というアドバイス。
一見、合理的に見えるかもしれません。
でもちょっと待ってください。
それで、伝わってますか?
あなたが短く叱った『彼』は
問題を、ちゃんと『問題だ』として認識してくれてましたか?
ちなみに、もしあなたの職場の管理職が、あなたのミスを「短く叱って」くれた場合。
あなたは「気持ちよく否を認める」ことが出来るでしょうか?
教育観の違いで、あなたが保護者とトラブルになった場合。
あなたの言い分は全く聞かず「ダメなものはダメだ!」と言い切り、「きっぱり指導」「保護者に謝罪」を押し付けてきたらどうでしょう?
きっと、自分の非を認めざるを得なかったとしても、必ず何かしらの『遺恨』が残るはず。
なぜ大人同士では許されないのに、子どもに対してなら「気持ちよく否を認めさせる」という対応は許されるのでしょうか?
「短く叱る」という幻想——若手教師の私が陥った罠
私も若手教師だった頃、「説教は長くするな」というアドバイスに従っていました。
子どもが問題行動を起こすと、短く叱って、形式的に反省させて、すっきり解決したつもりになっていました。
「また長々と話し始めた...」と子どもたちにウンザリされないよう、手短に済ませていたんです。
でもある日、休み時間に教室の隅で友達とその子の話していた内容に愕然としました。「お前先生の説教、全然聞いてなかったやん笑」「だってあいつウザいしw」と。。。
見た感じは「はい、分かりました」とサッパリした様子で非を認めてくれた彼。ところが、それは完全に「仮面」でした。
その瞬間、ハッとしました。私は「短く叱る」ことで、自分が満足していただけだったんです。子どもの心には何も届いていなかった。
だからこそ分かるのです──「短く叱る」という方法が、いかに子どもの心に届いていなかったか。いかに問題の本質から目を背けさせていたか。
だって考えてみてください。あなたは教室で「きっぱり指導」を行なった後、本当に子どもの心に変化が起きたと確信できていますか?
それとも単に「教師である自分が満足した」だけではありませんか?
過去に、私と同じ過ちを繰り返した教師はいったいどれほどの数にのぼるのでしょう…
本当の問題は「説教の長さ」ではない
問題の本質は「説教の長さ」ではありません。
本当の問題は、"一方的に話す説教"そのものにあるのです。
「事実報告」「謝罪」「今後の方針」「償い」──こうした形式的なステップを踏ませれば解決する?それは企業の不祥事会見のようなもの。
中身のない謝罪なんて誰も信用しません。むしろ「形だけ整えりゃいいんだな」と学習させてしまうだけです。
かつてやんちゃだった大人たちの多くはこう振り返ります。「あのとき"気持ちよく否を認めた"ふりをしただけなのに、先生は"解決した"と思い込んでいた。僕の中では何も解決していなかったのに...」
あなたが「きっぱり指導」をした後、子どもが「はい、わかりました」と言ったとしても、その子の心の中では「この先生、本当は僕のこと何もわかってない」と思っているかもしれないのです。
「きっぱりとした指導が後々、悪い感情を残さない」という考えこそが幻想なのです。
「長さ」より大切な「届くかどうか」
教育の本質は「子どもを管理すること」ではなく、「子どもを育てること」です。
そのためには、説教の"長さ"より、子どもの心に"届く"かどうかが重要。
本当に必要なのは「きっぱり叱る」ことではなく、「信頼関係に基づく誠実な対話」です。これが私の長年の教育現場での発見でした。
人が人の話を聞くかどうかは、説明の長さではなく「話し手への信頼」と「内容の自分との関連性」で決まります。
あなたがセールスマンの保険勧誘に乗らず華麗にスルーするのは、説明が長いからですか?短く端的なセールスなら「じゃあ買います」となりますか?
ならないはずです。
どんなに短くても、「興味のない人」からの「聞く必要がない、特に自分のためにならない」話は、普通にスルーされます。
子どもも同じです。
子どもが「長い説教」をウンザリするのは、単に長いからではなく、「またこの先生の自己満足が始まった」と感じるからです。彼らは大人が思っている以上に敏感に、教師の本音を見抜いています。
子どもの心に届く「対話」とは
「悪かったこと」を教える際には、「集団生活として」と「人として」を分けて伝えることが大切です。
人格否定するわけではありません。あくまで「行動」が悪かったのであり、「行動は、変えられる」というポジティブな視点をハッキリ伝えること。
そして何より「それがこの先、あなたの生きやすさにも繋がる」ことをしっかり伝える。
これが本当の意味での「子どもを育てる」教育なのです。
こうした姿勢で子どもと向き合うとき、あなたは教師としての本当の喜びを見つけるでしょう。子どもたちがあなたを信頼し、あなたの言葉に耳を傾け、内面から変わっていく姿を見ることができるのです。
保護者の多くは「うちの子が何をしたか」だけでなく「なぜそうしたのか、先生はどう理解してくれているのか」を知りたいと思っています。「短く叱って終わり」では、この期待に応えることはできません。
「心に届く対話」のための5つの視点
では具体的に、「短い説教」ではなく「心に届く対話」をするにはどうすれば良いのでしょうか?
まず重要なのは、形式より本質を重視することです。
1. 「なぜダメなのか」を腹落ちさせる
「ダメなものはダメ」という言葉は、子どもの心に何も残しません。なぜそれが問題なのか、どんな影響があるのかを、子ども自身が理解できるように導きます。これが再発防止の唯一の道です。
例えば、「授業中におしゃべりしたらダメ」ではなく、「おしゃべりすると、あなた自身も集中できなくなるし、周りの友達の学習権も奪ってしまう。そうすると結局、クラス全体が困ることになるんだよ」と伝えます。
2. 聞き手として子どもの話に耳を傾ける
短く叱ることより、じっくり話を聞くことで信頼関係が深まります。「どうしてそうなったの?」と問いかけ、子どもの言い分にも耳を傾けてみましょう。
時には「そういう気持ちになったんだね」と共感することも大切です。これは許すことではなく、理解することです。理解した上で、より良い行動を一緒に考えていくのです。
3. 「行動」と「人格」を分ける
「あなたはダメな子だ」ではなく「その行動は問題がある」と伝えます。人格を否定せず、変えられる「行動」にフォーカスするのです。
子どもは大人以上に、自分自身と自分の行動を区別できていません。だからこそ「あなたは大切な存在だよ。だからこそ、その行動は変えていこう」というメッセージが重要なのです。
4. 長期的な成長を見据える
その場しのぎの「きっぱり解決」よりも、時間をかけてでも「本質的な成長」を促します。表面上の行動是正より、内面からの変化を目指すのです。
時には一つの問題に何度も向き合うことが必要かもしれません。それを「面倒くさい」と思わず、子どもの成長の過程として受け止めましょう。
5. 共に考える姿勢を持つ
子どもを説教の"対象"ではなく"対話の相手"として尊重します。「どうしたらいいと思う?」と一緒に解決策を考えることで、子どもは自分で考える力を身につけていきます。
これは「答えを教える」のではなく、「答えを見つける力」を育てることです。長い目で見れば、この力こそが子どもの将来を支えるものになるでしょう。
これらの方法は、単なるテクニックではありません。子どもを一人の人間として尊重する教育哲学なのです。
心に届く対話こそが、真の教育
やんちゃな子を持つ親の多くはこう思っています。「うちの子はただの"困った子"じゃない。手がかかるけど、優しさも好奇心も持っているんだ。型にはめるのではなく、全体を見てほしい」
私たち教師は、この親の思いにどう応えるべきでしょうか?
「短く叱って終わり」というアプローチでは、子どもの複雑な内面に触れることはできません。本当に必要なのは、子どもの心に寄り添い、共に成長する姿勢なのです。
あなたが若手教師として日々奮闘されているのは知っています。完璧を求めるのではなく、一歩ずつ子どもとの信頼関係を築いていきましょう。
子どもは、あなたの「本音」に反応します。形式的な「短い説教」ではなく、心からの言葉を届けるとき、子どもの心は動き始めるのです。
子どもの心に届くのは、言葉の長さではなく、あなたの真剣さと信頼関係という土台です。
PS.
実は私自身、若手教師時代に「短く叱る」ことに固執していた時期がありました。言い訳のように聞こえるかもしれませんが、それは自分自身が「子どもたちから嫌われたくない」という恐れからでした。
ある日、クラスで問題行動を繰り返していた子に「きっぱり指導」をした後、その子が友達に「先生なんて大嫌い」「俺の話とか何も聞いてくれんし」と言っているのを偶然耳にしました。
表面上は彼も「はい、わかりました」「すみませんでした」と言っていたのに、心の中では全く届いていなかったのです。
そこから私は「短く済ませる」より「心に届く」ことを意識するようになりました。時には長い時間がかかることもあります。でも、本当に子どもの心に変化をもたらすには、その時間は決して無駄ではないのです。
若手教師の皆さん、「短く叱れ」というアドバイスに惑わされないでください。大切なのは、子どもの心に届く言葉を、信頼関係という土台の上で伝えることです。それが教師としての本当の喜びと成長につながると信じています。
次回は「指示が通らないから出さない?──それが崩壊の一歩」について考えていきます。子どもが指示に従わない本当の理由と、効果的な対応法について掘り下げていきますので、ぜひお楽しみに。