「先生、またハナミチがフザけてます...」
修学旅行の準備で盛り上がるはずの教室。
真面目に取り組もうとする子の横で、
周りの気持ちを考えないクラス1のやんちゃ坊や。
やりたい放題の「ハナミチ君(仮)」。
その結果、せっかくの楽しい
「祭りの準備」は台無しに。
こういったことは、何も
特別なイベント前に限った話ではなく
教室では毎日起こる日常の出来事。
あなたは、どう対応していますか?
「ハナミチ!また騒いでるのか!」
「ちゃんとしなさい!」
こういう叱り方を何度やってもほぼ効果がないことは、
もうお分かりですよね。
実は、子どもたちの心を動かす方法は、
叱ることでも、説教することでもありません。
”今の子ども”を叱るな、
"未来の子ども"に語りかけろ。
これが私が今回お伝えしたい、
教員センスがなくても、特別な指導技術がなくても。
明日からすぐに使える
"10年後の自分"をイメージさせる
アプローチです。
※この記事は、以下の記事の「深堀り記事」です。
当記事から読んでいただいている方は、以下を先に読まれると
理解がより深まるのでおすすめです。
【本記事を読めば、以下のことが分かります】
↓
- たった一言で子どもの意欲が高まり始める瞬間
- わずか数日で教室の空気が変わり始める具体的方法
- 初任者研修では決して教えてくれない「子どもの心の深層」
それでは見ていきましょう。
そもそも何故、子どもはフザけてしまうのか?
修学旅行の班活動。
係の話し合いをしている場面を想像してみてください。
「ハナミチ、お前『夜の集い』の司会じゃなかったっけ?」
「あぁ…うん。そうだっけ…?」
「じゃあさ、会の流れ確認とか練習ちゃんとしとけよ?」
「おっけ(適当)」
グループメンバーが真面目に話し合ってる最中、
ハナミチは机に突っ伏して笑い出します。
鉛筆を鼻と口に挟み、変顔をする。
誰も相手してくれないと分かると、
筒状のペンケースを使って1人で
「ペットボトルチャレンジ」をやりだす始末。
班のメンバーは呆れた表情で
「もういいよ、勝手にしろよ...」という感じ。
↑
この、教師が100回ぐらいは
見たことあるはずのシーン。
「ふざけないで!」
「真面目にやりなさい!」
「やる気ないなら帰りなさい!」
残念ながら、こういう叱り方では
本質的な解決にはなりません。
なぜなら...
子どもには「今」しか見えていないから。
・「今」しか見えないから、めんどくさいことから逃げたい。
・「今」大変だからやりたくない。フザケたほうがマシ。
・「今」が良ければそれでOK。
彼らの脳は、10年後どころか2週間後の修学旅行さえ
リアルに感じていないのが実情です。
(これは、初任者研修ではなかなか
学べない視点かもしれませんね)
でも、子どもを400人ぐらい見てくると分かってくる。
基本的に、子どもは「未来視点」を持っていません。
しかしだからこそ、
私たち教師が提供する必要があるんですね。
では、10年後の自分を見せるにはどうすればいい?
10年後をイメージさせるメリットについては
後に詳しく書いています。
まずは以下に、実際に私がよく使う方法をご紹介します。
ただし、長いセリフをそのまま覚える必要はありません。
以下の5つのステップの意図を理解すれば、
あなた自身の言葉でアレンジできます。
「10年後の自分」語りかけの基本構造(5つのステップ)
子どもたちに語る時は以下のステップを踏みます。
それぞれに「隠された教師の意図」があるため、
個別で話をする際にもかなりの効果があります。
まずは、大まかに見てみましょう。
A:現状認識・承認のステップ
- 目的:子どもたちの現在の状況を肯定的に認識する
- ポイント:否定からではなく、肯定から入る
- 教師の意図:子どもの心を開く土台づくり
B:大人の視点を示すステップ
- 目的:「大人になってみて分かること」を伝える
- ポイント:子どもには見えていない「大人の視点」を提供する
- 教師の意図:時間軸の広がりを感じさせる
C:未来のビジョンを描くステップ
- 目的:具体的な未来の場面をイメージさせる
- ポイント:できるだけ具体的に、感情も含めて描写する
- 教師の意図:脳内に「未来の映像」をつくり出す
D:選択の意味を示すステップ
- 目的:現在の選択が未来に与える影響を示す
- ポイント:因果関係を明確に、でも押しつけず選択肢として提示
- 教師の意図:内発的動機づけを促進する
E:核心メッセージのステップ
- 目的:「10年後の自分( = あなた)」のための提案であることを伝える
- ポイント:現在の行動を未来の自分への贈り物として位置づける
- 教師の意図:行動変容の本質的な理由を示す
以上です。
これだけではイメージしにくいので、
実践例を見てみましょう。
実践例:フザける子への"未来語り"
ハナミチくんを含めたクラス全体に、
私は以下のように語りかけます。
各ステップに分けて紹介しますね。
※各パートのセリフを繋げたものが、
実際の語りかけ(私バージョン)になります。
【導入:話を聞く雰囲気作り】
「ちょっといいかな、ハナミチ君。」
「みんなも聞いてほしいんだけど...」
※話し方のコツ:
- 声をやや落として、トーンを変える
- 姿勢を正し、子どもたちと目を合わせる
- ゆったりとした口調で「担任オーラ」を伝えるイメージ
【ステップA】現状認識・承認
「いよいよあと○日で修学旅行。みんなのワクワク感が伝わってくるね」
「みんなの楽しそうな雰囲気、最高だね!」
「楽しそうに取り組むこの雰囲気。担任として、とても嬉しく思います」
「このまま準備を頑張って、最高の修学旅行にしていこうね!」
※コツ:
- 熱心に準備に取り組んでる子へのねぎらい
- 「注意」ではなく「肯定」から入る
【ステップB】大人の視点を示す
「皆さんにとって今回の修学旅行が、『10年後の自分へのプレゼント』になってほしいと思ってます」
「大人になって分かったけど、こういう『準備の時間』も意外と、大事な思い出としてハッキリ残ってるんだよね。」
「ちなみに先生の『修学旅行』の思い出は・・・(ここでサッと自身の経験を話すと効果的です)」
コツ:
- 『当日』は、来てしまえば流れていくもの。でも『準備』は、楽しめば楽しむほど、「当日」への期待感を高められる
- 『当日』は一泊二日しかない。でも『準備段階』は、できるだけ多くの思い出を増やすチャンスだと言うことに気づかせる
【ステップC】未来のビジョンを描く
「例えば、みんなが20歳くらいになったとき、久しぶりに集まることがあると思うんだ」
「男子なら、お酒を飲みながら『あの時のハナミチの顔、めっちゃウケたよなー!www』って話すかも」
「女子なら、カフェで『夜、お部屋で恋バナしてたのに先生が見回りに来て焦ったよね~!笑』とか話すかも」
「そんな風に、楽しい思い出話で盛り上がってくれたら、担任としてこれ以上ないぐらい嬉しいな」
「できるだけ素敵な思い出をたくさん作ってほしい。当日は思いっきり楽しもうね」
コツ:
- ここまでの流れで、どれだけ「ワクワク感」を演出できるかが大事です。
- 話す順番に気をつける、というよりもとにかくポジティブな空気感にしましょう。
【ステップD】選択の意味を示す
「でもね、楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうんだ。いざ旅行が始まると、あとはどんどん終わりに向かってしまうんだよね…」
「だからこそ、この『準備の時間』を大切にしてほしい」
「『ノリノリで準備しよう!』『グループ以外の友達とも、たくさん話すぞ!』みたいに、準備に取り組めるといいね」
「この35人で行ける修学旅行は、一生のうちで最後のチャンス。」
「いま熱心に準備している人は、10年後にも『修学旅行、最高だった!例えば...』と、たくさんの思い出が出てくるはず。」
「逆に、『面倒だからふざけよう』『適当にやっちゃおう』という人には、提案があるんだ。『今の時間だけでも』少し集中してみない?」
コツ:
- ハナミチくん以外の子にも、全員にしっかり訴える気持ちで話す。
- 担任の熱量を伝えることが最も大切です。
【ステップE】核心メッセージ
「正直に言うと、これはふざけて先生に注意されちゃう『今のハナミチくん』のための話ではないんだ」
「何の罪もないのに『俺だけ、みんなより楽しい思い出が少ない...』と悲しむ『10年後のハナミチくん』のための提案なんだよ」
「今みんなと楽しく準備した時間は、きっと『10年後のあなた』が一番感謝してくれると思うんだ」
「修学旅行まであと◯日。当日のこと、そして将来、思い出話するのを楽しみに、今この時間を大切にしていこう。」
コツ:
- 名指しするかどうかは、そのときの状況によります
- 「10年後のハナミチ」と「いま現在のハナミチ」の人格が、まるで分かれているかのように話す。
- なかなか難しい場面ですが、ここがこの方法の肝部分です。
- 簡単に図示したり、イラストを使って説明すると伝わりやすかったように思います。
上記のような感じです。
終始、
「いま現在」ではなく
「未来のあなた方」の想いを代弁するように
全力を尽くしましょう。
※「アレンジ例:様々な場面での活用例」について、
別記事(4つ目)で執筆する予定です。
※記事公開まで、少しお待ち下さい。
子どもたちの目がキラリと変わるとき
教師が適切に語ると、子どもの目は
「キラッ…✨️」もしくは「✨️キラリ✨️」と光ります。
これはもう、マジで光るんです。
言葉の比喩ではなく、
実際に目の輝きが変わるのを感じるでしょう。
そうなるとクラス全体に活気が出ます。
子どもたちが本当に意欲的になっていくんですね。
自分たちでどんどん案を考えて、
「先生、これもやって良いですか??」
と提案してきたり、
「きのう帰ってから◯◯君の家に集まって準備したよ」
という報告が次々と届いたりします。
この効果がしっかりと定着すると、
特別なイベントがなくても、あなたの教室は
『なんか盛り上がってる』状態になっていきます。
『高校の文化祭まえでウキウキしてる感じ』
『本番2週間前の良いムード、空気感』
が常に漂ってる感じ、ですね。
ときに浮足立ったりもしますが、
こうなったクラスの状態は本当に素敵です。
当然、学習に対する意欲も増すので、
話し合いが活発になり、学習が苦手な子も
テストの点数が上がったりするなどの好循環に入れます。
この「キラリ」とした目の輝きは、
まさに「教師冥利に尽きる」瞬間。
それまで無気力だった子が率先して動き始めたり、
普段発言しない子が手を挙げたりする変化もあったりします。
友達関係が深まったり、
自分に自信がもてたりすると、
子どもって本当に急速に変化したりしますね
この状態を一度経験すると
「喜びとやりがいある仕事」だと
再確認できるでしょう。
【子どもたちはどう変わるか】
このアプローチがうまくいくと、
実は変化はすぐに見られます。
実際に私の教室では、フザけていた子が考えたり、
その日の残りの時間はいつもより集中して
活動に参加したりします。
※うまく進行するために「慣れ」は必要です。
ただし、正直に言うと
この効果は長くは続きません。
長くても約1週間。
早ければ次の日には、少しずつ
元の調子に戻り始めます。
でもこれは、ごく自然なこと。
普通のことです。
だからこそ、この「未来視点」での語りかけは
一度きりでは効果が薄い。
日常的に繰り返し行うことが重要
なんですね。
「朝の会」「授業の導入」「トラブル時」など、
さまざまな場面で継続的に未来の視点を示していくことで、
子どもたちの中に徐々に定着していきます。
実践してきて「良いな、この方法…」と感じるのは、
教師の継続的な働きかけが、
少しずつ子どもたち自身の意欲や
「先を見る力」を育んでいくことです。
教育は魔法ではないので、
「一回これをやるだけでOK!」
という手法はありません。
が、繰り返すことでしっかりと
子どもたちの目はポジティブな方に
変わっていきます。
※気をつけるべきこと
このアプローチはオススメですが、
常に万能!という訳ではありません。
実践してきて実感している、
より効果的に活用するための
ポイントをお伝えしますね。
- 毎日、毎回やると飽きる:
どんな手法もそうですが、毎日良い続けると聞き流されてしまいます。「ここぞ!」という場面で使います。いろいろな行事のタイミングで、定期的に使うのがいいですね。 - 集団での妨害行為:
複数の子どもがグルになっている場合は、個別対応が先決です。一対一で語りかける場面を作りましょう。 - 子どもによっては伝わらないこともある:
すべての子に伝わるとは限らないです。私の場合はまず全体に語りかけ、イメージを伝えた後に、特に気になる子に対しては個別で話しています。
以上のような感じです。
一度で永久的な効果を期待するのではなく、
日常的に繰り返していって、
未来の視点を定着を図ることが大切です。
子どもたちの中に、徐々に
「未来を想像する力」が育まれていくのを信じて、
根気強く続けましょう。
まとめ:10年後の自分への手紙が、今日の行動を変える
子どもたちは本質的に「今」しか見えていません。
だからこそ、私たち教師が「10年後」という視点を与えることで、彼らの目が変わり始めるのです。
叱るのではなく、"未来の自分"に語りかける。
それが、特別なセンスがなくても
子どもたちの心を動かせるアプローチでした。
明日の朝の会で、あなたも試してみてください。
きっと、子どもたちの目がキラリと変わる瞬間を目にするはずです。✨
子どもを叱るな、"未来の自分"に語れ。
子どもは未来の記憶を持っていない。だから教師が創る。
次の記事:この視点をさらに広げる方法
次回は、この「10年後の自分アプローチ」を
さらに発展させた内容を書こうと思います。
「子どもの心に届く言葉選びの3つのコツ」
- 行事別の効果的な「未来語り」のフレーズ集
- 日常の小さなトラブルにも使える実践例
- 子どもの反応を10倍くらい高める「質問」の技術
授業中の小さなトラブルや日常の指導場面で、
どのようにこの視点を活用するか、
具体的な例を紹介してみようかと思います。
「この視点の様々な場面での活用法を知りたい!」
という方は、ぜひ次回をお楽しみに。
あなたの実践体験を教えて下さい^^
この記事が少しでもお役に立ったなら、
ぜひ以下のいずれかの方法で教えてくださると嬉しいです!
- コメント欄に感想や質問を残す
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特に実践してみた結果、
子どもたちの反応や変化を教えていただけると嬉しいです。
皆さんの体験が、
次の記事をより充実させる
大きなヒントになります^^
学校教育の可能性は、
こうした小さな「視点の共有」から
広がっていくものだと信じています。
一人でも多くの先生に届き、
一人でも多くの子どもたちの目が
「キラリと変わる」瞬間が生まれることを
願っています!
PS.
この視点に気づかなかったら、私は教師を辞めていたかもしれない話。
正直に言うと。
私は「担任ガチャ外れ…」と子どもたちに陰口を言われていた教師でした…
あの日、教室の外でたまたま聞いてしまった言葉。
🧒「3組って担任ガチャ外れだよね」
👦「それなー」
この言葉を聞いた瞬間、胸が『キュウッ』と締め付けられて、「もう辞めたい…」と心から思いました。
残念ながら私には「教師のセンス」が全くなかったんですね。
クラスが盛り上がらない。
子どもたちの心に響かない。
本当に毎日が苦しかった。
隣のクラスはいつ見ても活気に満ちていて、廊下で同学年の先生とすれ違うのも辛かった時期もありました。
「同じ研修を受けたのに、なぜこんなに差が出るんだろう…」と悩む日々。
でも、◯に物狂いで色々学んだり、試してみて失敗して…を繰り返していくうちに、教育は「伝え方ひとつで、子どもたちの反応が全く変わる」ことに気が付きました。
今回の「10年後の自分に語る」ことも、そのひとつです。
はじめは「まあちょっと違った切り口で話してみるか」「ぶっちゃけ、怒るの面倒だし」みたいな感じでした。
「こんな伝え方で、本当に子どもが変わるのだろうか?」
それでも試しに、修学旅行前の教室で話してみたんですね。
すると、ふざけていたハナミチくんの目が「キラッ…」と変わった気がしました。
数日後には自ら「司会者として、会を盛り上げるためには?」と考え始め、1週間後には班で意見を言うようになりました。
(当然、途中で何度も担任や友達からの「励まし = 喝」が入りましたが笑)
これは彼だけではなく、クラス全体が徐々に変わっていった印象です。
そのあたりから、子どもたちとの関わり方が変わったと感じました。
厳密に言えば、当時はいろんな方法をとにかく試しまくっていたので、この方法のみで彼やクラスが変わったのかは分かりません。
でも結局、学級経営って「積み重ね」なんですよね。
「君たちの成長を全力でサポートするよ」
という担任の無言メッセージの「積み重ね」。
その積み重ねに、今回の「10年後の自分に語る」という方法が大きく貢献していたのは間違いないです。
「ダメ担任だ」と自分を責めていた私の目線も、「10年後の彼ら」を見据えていくうちに、いつしか変わってました。
叱るばかりではなく、「10年後の彼ら」を教室に召喚することで、不思議と心が軽くなった感じ。
ちなみに、過去に一度担任をもった子たちから、こういう手紙をもらえるようになったのも、このあたりからでした。
1年が終わるときの寄せ書きに「先生の口癖は『20年後の君たちは…』でしたね笑」と書いてくれた子もいました笑(その年は「20年後」にハマっていたらしいです)
この一言で、私は救われました。
教師として「何者か」になれたと実感できた瞬間だったと思います。
あなたにも、同じ変化はきっと起きます。
明日、教室で子どもたちの前に立ったとき、"10年後の彼ら"に語りかけてみてください。
そして、子どもたちの目がキラリと変わる瞬間を、ぜひ体験してほしいと思います。
「特別なセンスがないし…」と悩む必要はありません。
この視点があれば、子どもたちの心に届く、特別な教師になれる。
子どもは未来の記憶を持っていない。
だから私たち教師が、その未来を子どもたちの心に創り出していきましょう。
私はこの視点で考えられるようになってから、ようやく「教師」であることを意識できた気がします。
単なる知識の伝達者ではなく、子どもたちの未来の記憶を創る存在として、新たな使命感を感じたんですね。
この小さな気づきが、一人でも多くの先生に広がり、そして多くの子どもたちの目がキラリと変わる瞬間が生まれることを、心から願っています。
※ここまで読んで「他の視点は…?」と考えた方は、かなり教育的センスが溢れている方だと思います。
以下に、別の視点からの「子どもの可能性の広げ方」について書いてあります。別角度からの切り口が見えてくると思うのでおすすめですよ。